講座「現代に生きる与謝野晶子」に関連して、大正時代についてあれこれ考えている。「大正デモクラシー」や「大正ロマン」という言葉もある通り、民主主義(民本主義)や護憲運動、普通選挙運動、都市文化、自由主義的な思潮が広がった時代。国際連盟の設立や軍縮などの世界的な動きもあった。
一方で、第一次世界大戦やシベリア出兵、関東大震災と朝鮮人虐殺、治安維持法の制定など、明治以降の強権的・帝国主義的な政治の流れも続いていた。
昭和に入って日本は、世界恐慌、満州事変、国際連盟脱退、そして第二次世界大戦へという歩みを進めることになるのだが、大正時代のどこに歴史の分岐点があったのだろうか。悲惨な戦争を経ることなく民主化が達成される道筋も、どこかに存在したのかもしれないという気がしてきた。
文芸雑誌という性格上、あまり政治向きの話は無いのですが、それでも「(昨今の芸術教育の新運動は)軍国的侵略主義が漸く衰へて来て、民衆文化主義が頓に盛んになって来た自然の反映」という記述があったり(大正11年)、桃太郎が軍国主義だと言って排される傾向があったとか(同)、いかにも大正デモクラシーという感じがします。
かと思えば「七千萬のまなじりを/濡すは露かアメリカの/その濁江に涜されじ/誉れをそゝげ石清水」「建国二千六百年/錦の史に荘厳の/光を放つ宝刀は/弥よ研きに鞘に在り」というような投稿詩が唐突に出てきたりして(大正13年)ドキッとさせられることも・・・。
歴史を考える時には、やはり当時のものを見るのが一番良いですね。特に雑誌には時代の状況や雰囲気がリアルタイムに反映していると感じます。
最後の投稿詩、Wikipediaの「日米関係史」を見ると「1924年7月1日にアメリカ合衆国で排日移民法が施行される。この頃から次第に、日本で反米感情が高まった」とあるので、その影響なのかもしれません。建国2600年は昭和15年なので、ちょっと時期がズレる気もしますが。
最後の詩は「玲瓏歌」という4連からなる詩の第1連と第3連です。作者は無名の読者ではなく「大阪法曹界の古強者」の石黒浩平という人物なので、投稿というより寄稿というべきかも知れません。
掲載されているのは1924年の10月号で、編集部の説明に「時事に感じて…送ってよこした」とあり、まさに7月の排日移民法を受けて作った詩のように思えます。
なお第2連は「紙上の平和は魔の眠り/口頭の愛(←ちょっと少女歌劇っぽい)は鬼の笑み/視よ大道に表裏なし/我らの正義は天を貫く」、行動を起こせ!と言っているようです。