2022年02月15日

ペーター・ヴォールレーベン『樹木たちの知られざる生活』


副題は「森林管理官が聴いた森の声」。
長年ドイツで森林管理官を務めている著者が、木の生態の不思議を描いたエッセイ37篇を収めている。

木が「会話する」「助け合う」「子育てする」「数をかぞえる」「移動する」など、一見、えっ?と思うような話が次々と出てくるが、どれも最新の科学と長年の観察を踏まえた内容だ。

一本のブナは五年ごとに少なくとも三万の実を落とす。立っている場所の光の量にもよるが、樹齢八〇年から一五〇年で繁殖できるようになる。寿命を四〇〇年とした場合、その木は少なくとも六〇回ほど受精し、一八〇万個の実をつける計算だ。そのうち成熟して木に育つのはたった一本。
大雨のときに一本の成木が集める水の量は一〇〇〇リットルを超えることもあると言われている。木は自分の根元に水を集めやすい形になっている。そうやって、乾期に備えて水を地中に蓄えておくのだ。
街中の木は、森を離れて身寄りを失った木だ。多くは道路沿いに立つ、まさに“ストリートチルドレン”といえる。(…)根がある程度広がったら、大きな壁に突き当たる。道路や歩道の下の土壌は、アスファルトを敷くために公園などよりもはるかに強く固められているからだ。
木は歩けない。誰もが知っていることだ。それなのに移動する必要はある。では、歩かずに移動するにはどうしたらいいのだろうか? その答えは世代交代にある。どの木も、苗の時代に根を張った場所に一生居座りつづけなければならない。しかし繁殖をし、生れたばかりの赤ん坊、つまり種子の期間だけ、樹木は移動できるのだ。

ドイツで100万部を超えるベストセラーになっただけあって、とにかく面白い。科学に基づきながらも、科学を超えた生命の謎や神秘に触れている。

2018年11月15日発行、2021年9月15日11刷。
ハヤカワノンフィクション文庫、700円。

posted by 松村正直 at 21:13| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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