2022年02月12日

奥田亡羊歌集『花』

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第3歌集。短歌339首と詩1篇。

ボカロP tamaGOの歌詞との合作や「ソルト・マーチ」「東京オリンピック」の映像を元にした連作、詞書を多用した「平成じぶん歌」、祖父の俳人奥田雀草の足跡をたどる連作など、様々な試みを行っている。

黄昏に遅れてくらみゆく沼の
口をひらいて人の名をよぶ

花よりも葉の斑つやめく石蕗の
暗きいのちを抱かんとする

首のないにわとり転びつつ走る
愛はつめたいものではないのか

まっすぐに立ちたる水に
一輪の薔薇が挿されて秋の日となる

ダリの絵の時計のごとく滴りて
猫の眠れる石段のぼる

形なき猫を抱けば
あたたかい袋のなかに骨が動いた

ガスタンクを巻きてひとすじ
階段のほそき影あり月の光に

ゴンドラの影のにわかに迫りきて折れ曲がりつつ尾根を越えたり

警官も怖かったろう
にんげんを殴り続けて終わりなければ

小手鞠は夜目にも見えて山吹は見えずなりたり野につづく庭

1首目、暗くなってゆく水面へと飲み込まれてしまいそうになる。
2首目、石蕗の黄色くて明るい花ではなく、葉の方に着目している。
3首目、鶏を屠殺する場面。上句と下句の取り合わせに迫力がある。
4首目、花瓶と言わず「まっすぐに立ちたる水」と言ったのがいい。
5首目、上句の比喩が抜群。「滴りて」と液体のように詠んでいる。
6首目、猫を抱いた感触がありありと甦る。骨の手触りが生々しい。
7首目「巻きて」がいい。球体に緩やかな螺旋を描いて天辺に続く。
8首目、箱根のロープウェイ。地表に映る影の描写に臨場感がある。
9首目、ガンジーらのデモを鎮圧する警官側の心情を想像している。
10首目、小手鞠の白さは、夜でもほのかに浮かび上がって見える。

二行の分かち書きになっている歌が多いのだが、単に一首を二行に分けたのではなく、一行目と二行目が連句のような関係になっていると感じた。その関係は、ボカロP tamaGOの歌詞を取り込んだ合作にも生かされている。

2021年12月10日、砂子屋書房、3000円。

posted by 松村正直 at 22:32| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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