東京から山梨県北杜市に移住して20年になる著者が、田舎暮らしで出会った様々な困難について記した本。これから移住を考えている人に参考になる内容だ。
「毒本」とあるので、田舎の閉鎖性や陰湿な人間関係などの暗い話が書かれているのかと思ったら、そうではなかった。「ログハウス」「薪ストーブ」「狩猟問題」「電気柵問題」「水問題」といった話が中心である。
何しろ20年にわたって自ら田舎暮らしを続けている著者であるから、どちらかと言えば肯定的な内容であり、困難をどう乗り越えたかの実践例となっている。もちろん相当な覚悟は必要であるが、決して田舎暮らしに否定的な本ではない。
田舎暮らしにスローライフなんて存在しない!(…)田舎暮らしはとにかく多忙だ。朝から晩まで汗水流して働きづめである。
田舎暮らしの基本のひとつ。それはとにかく何でも自分でやるということ。都会にいて、たとえば蛇口から水が出なくなったり、トイレが壊れたり、家電製品が故障したりすれば、業者を呼ぶ。(…)ところが――田舎では違う。
新しい土地で出会う想定外の事態にどう対応するか。様々なトラブルを毒にするか薬にするか。そんな覚悟を問い掛けてくる一冊である。
2021年9月30日、光文社新書、900円。