1975年に笠間書院から刊行された『鷗外「奈良五十首」の意味』を改訂、増補して文庫化したもの。森鷗外「奈良五十首」(「明星」1922年1月)に関する詳細な注釈書だ。
鷗外は陸軍軍医総監を退任したのち帝室博物館総長となり、毎年正倉院の宝物の曝涼に立ち会うために奈良を訪れた。その際の歌をまとめたのが「奈良五十首」である。
難解な歌も含まれるその1首1首について、著者は資料に当たるだけでなく、実際に現地を訪れ、関係者の話を聞くなどして、実に細かく調べていく。かなりマニアックな内容と言ってもいい。
その熱意の奥にあるのは、
鷗外の文学活動はあらゆるジャンルにわたっているために、鷗外の短歌は、これまでひどく不遇な位置におかれてきたようである。
という思いであった。
まるでミステリーを読み解くような一冊で、実証的な文学研究の醍醐味を味わうことができる。鷗外の足跡を訪ねて奈良にも行ってみたくなった。
2015年10月25日、中公文庫、1000円。