2019年に草思社から刊行された単行本の文庫化。
様々な生き物の死にざまを通じて、生きるとは何か、命とは何かを描き出している。登場するのは、セミ、サケ、カゲロウ、タコ、ウミガメ、ミツバチ、ヒキガエル、ミノムシ、ニワトリ、ゾウなど30種。
ハサミムシの母親は、卵からかえった我が子のために、自らの体を差し出すのである。そんな親の思いを知っているのだろうか。ハサミムシの子どもたちは先を争うように、母親の体を貪り食う。
宝くじの一等に当たる確率は一〇〇〇万分の一と言われている。マンボウが無事に大人になる確率は、宝くじの一等に当たるよりも難しいと言っていい。
女王にとって働きアリが働くマシンであるならば、働きアリたちにとって女王アリは、いわば卵を産みマシンでしかない。卵を産むことだけが、女王の価値なのだ。
昆虫や動物の生のあり方は、人間と違って実にシンプルだ。生まれて、食べて、生殖活動をして、死ぬ。そのすべてが虚飾なく剝き出しになっている。ひたすら「命のバトン」をつなぐことだけが唯一の目的と言っていい。
生命が地球に誕生したのは、三八億年も前のことである。すべての生命が単細胞生物であったこの時代に、生物に「死」は存在しなかった。
オスとメスという仕組みを生み出すと同時に、生物は「死」というシステムを作り出したのである。
死とは何か、人はなぜ死ぬのか。そうした問題を考える上でも非常に示唆に富む一冊だと思う。
2021年12月8日、草思社文庫、750円。
以前読んだ稲垣さんの『イネという不思議な植物』も、幅広い知識に加えて考察が深く印象的な本でした。
最近、書店に行くと稲垣さんの本がよく目につきます。精力的にお書きになっていますね。