2018年、19年に詠まれたものを中心に550首を収めた第2歌集。
タイトルの通り食べものを詠んだ歌が多く、ユーモラスな内容も含まれているが、ずっしりとした読後感が残る。食べものの歌を通じて人との関わり方や距離感が描かれているところに大きな特徴がある。また、母をはじめとした家族や生い立ち、自らの指向に関する歌もあって、作者の歌の根っこにあるものが窺える。
さみしさはきみがとほくへ行くやうで妻と児と連れ立つてとほくへ
捩子といふにも雄、雌の別あることのその比喩のことにがく思ふも
真白なる馬のたてがみ嚙みごたへなきをふしぎと長く嚙みたり
島らつきよう嚙みつつビール飲んでゐるビールにも島らつきようにも飽きて
うみどりは声にごらせて鳴くものを嗚咽のごとく聞きて過ぎゆく
町は体 ゆび這はすごときみは来ていろいろのところ歩きたるかな
カット野菜ぶつこんで食べるカップ麺からだあたたかく感慨はくる
生魚のにほひ時折を感じつつ刺身パン食へり布団のうへに
ハッピーバースデーわたしが聞いた宵いくつたどればそこに生まれるわたし
シャワー室にスクワットするわが姿大き鏡のなかを上下す
1首目、同性の「きみ」の結婚や子の誕生を寂しむ思いが強く滲む。
2首目、男女という性別によって区分されることに対する違和感。
3首目、味わっているというよりも、心を鎮めるために嚙んでいる。
4首目、交互に飲み食いするうちに、自動的に口に運ぶ感じになる。
5首目「嗚咽のごとく」聞こえるのは作者の中に嗚咽があるからだ。
6首目、濃密なエロスを感じさせる歌。自分の暮らす町を歩かれる。
7首目「か」の音やア行の響きが小さな満足感をうまく伝えている。
8首目、自家製「刺身パン」の衝撃力。ひとり暮らしの感じが濃い。
9首目、祝う人がいて幸せだった誕生日の記憶を、遠くさかのぼる。
10首目「上下す」がいい。自分の身体が別物のように感じられる。
2021年12月25日、現代短歌社、2200円。