副題は「もうひとつの日本美術史」。
挿絵、口絵、装幀、装画、工芸、デザイン、新版画、イラスト、漫画など、いわゆる商業美術に焦点を当て、多くの作家や作品を紹介した一冊。アカデミックな美術史においてワンランク下のものとされてきた世界を再評価し、美術史を書き替える意図が込められている。
登場するのは、渡辺省亭、鏑木清方、柴田是真、小村雪岱、歌川国芳、河鍋暁斎、鰭崎英朋、伊藤彦造、伊東深水、川瀬巴水、橋口五葉、田中一光、横尾忠則、つげ義春など。
そもそも明治以降、漆工や金工、木工、陶芸といった工芸は「美術」の埒外に置かれ、作品の多くは外貨獲得のため「製品」として輸出されるのが普通でした。この時代の職人が精魂を込め、切磋琢磨した精華とその超絶技巧を正当に評価していたのは、海外の美術家やコレクターだったのです。
本画の作品は画集に編まれ、美術全集にも収載されていますが、どれだけ素晴らしい作品であっても挿絵は蚊帳の外。挿絵作品を総覧するような全集が編まれるには、昭和一〇年まで待たなければなりませんでした。
将来的には、マンガの原画が国の重要文化財や国宝に指定される日が来るでしょう。その筆頭候補は、何と言っても「ねじ式」です。文化財候補マンガの中でも、この作品は「絵」として最も素晴らしい。
カラー写真が71点と豊富で、作品の持つ力をまざまざと感じることができる。この本で初めて名前を知った美術家も多く、実物を見に美術館へと足を運びたくなる。
2021年12月10日、NHK出版新書、1100円。