「枕詞」「序詞」「見立て」「掛詞」「縁語」「本歌取り」「物名」「折句・沓冠」「長歌」「題詠」の10のテーマについて、それぞれ和歌の専門家が解説した本。
どの章も有名な例歌を挙げてわかりやすく説明していて、和歌の入門書としてもってこいの一冊になっている。
和歌に使われる言葉は、限られています。(…)それまでの和歌の中で使用されてきた、洗練された語句しか使っていけないからです。選ばれた言葉によって三十一文字でまとめられていて、その中だけで考えればよいというのですから、複雑なものになるはずがありませんね。和歌というのは、とてもシンプルなものなのです。
序詞の持つ具象的なイメージを頭の中に残しつつ〈思いの文脈〉を読むと、何となく作者の心がわかったような気がするのです。(…)序詞は、表現しにくい伝わりにくい人の心に形を与え、心が表現できたかも知れない、心がわかったかも知れない、という感覚を抱かせてくれる表現技法なのです。
一般に歌は初句から順に読みはじめ、結句に至って全面的に趣旨が明らかになるものです。だから、初句を見た時にはまだ全貌が見えません。しかし、先をある程度予想して読みを修正しながら読み進めていきます。そうして最後までたどり着いた時、はじめて全体像が見えるわけです。
これまで、和歌は何となく敬して遠ざけてきたのだけれど、意外に現代の短歌とも共通する面がいろいろとあるのだと感じた。今後少しずつ読んでいこうと思う。
2014年11月1日第1刷、2020年1月10日第7刷。
笠間書院、1200円。
大手予備校で古文の名物講師をやっている大学時代の同級生は、毎年年賀状に「つちのとゐ」「かのとうし」などの干支を「物名」として詠み込んだ自作の和歌を書い送ってきてくれるのですが、来年の「みづのえとら」はどうするのかな。(難しそう・・・)
序詞は現代短歌でも時々使われていて、大きな可能性を秘めた修辞だと感じています。
葦群のなかゆくみちの湿り地の沈みがちなる今朝のものおもひ
軒下に凍るつららのつらつらに君を偲ぶも今日葬りの日
/柏崎驍二『北窓集』
現代短歌ではありませんが、教科書にも出てくる長塚節の
馬追虫の髭のそよろに来る秋はまなこを閉ぢて想ひみるべし
を思い出しました。