副題は「「油山事件」戦犯告白録」。
2006年に毎日新聞社から刊行された本の文庫化。
第54回エッセイスト・クラブ賞受賞作。
油山事件(昭和20年8月10日、福岡市の油山においてアメリカ軍の捕虜8名が処刑された事件)によりBC級戦犯として指名手配された元陸軍見習士官、左田野修の3年半に及ぶ逃亡生活を描いたノンフィクション。
昭和21年2月に故郷の福岡を発って岐阜県多治見市に行き、偽名を使って陶器製造所で働く生活を送ったのち、昭和24年7月に逮捕、戦犯法廷で裁かれるまでが記されている。
戦後社会における価値観の変化や、警察による厳しい追及の様子が生々しい。
戦争に負けて連合国に占領され、「ミンシュシュギ」という言葉が、DDTの粉を振り撒くように全国を席捲すると、出兵時に「バンザイ」と歓呼の声で送り出してくれた国民たちは、手のひらを返したごとく元軍人たちを責め立てている。
(姉の)葬式のとき、警察官二人が家の近くに張り込み、弔問客の中に左田野が混じっているかどうか目を光らせ、葬儀が終わるまで立ち去らなかった。彼が姉の死を知ったのは巣鴨プリズンに収監された後だった。
巣鴨プリズンの収容者で絞首刑となったのはA級七人、BC級五十三人の計六十人、各国の計死者を入れるとBC級の死者は九百三十五人。
先日、同じく油山事件で裁かれた見習士官の大槻隆氏の残した資料を、立命館大学国際平和ミュージアムで閲覧してきた。巣鴨プリズンで短歌を詠み始め、合同歌集『巣鴨』の刊行などに尽力された方だ。
http://www.ritsumei.ac.jp/mng/er/wp-museum/publication/journal/documents/17_73_2.pdf
彼らの過酷な人生について、しばらく考え続けてみようと思う。
2010年7月25日、中公文庫、838円。