2021年12月15日

遠藤由季歌集『北緯43度』


「かりん」所属の作者の第3歌集。2016年から2019年までの作品290首を収めている。タイトルは旅行で訪れた札幌の緯度。

前かがみに人々走らす広重の雨の角度をいま窓に見る
ひらいたら散りゆくばかりのカレンダー筒状のまま立てかけておく
人であるわれとかもめであるかもめ出会う沼へと夕暮れはくる
みずからの深きところにひろげたる蒼知らぬまま消える水溜まり
ちんまりと服に埋もれる黒柳徹子の昼を風邪にこもりぬ
瓶ビールの王冠ほどの海老を買う身ぐるみ剝がされ丸まりたるを
母の椅子からは欅がよく見えて今日はつぶらな雲を乗せおり
一生分詠いつくして出がらしの人称としてしまいき「きみ」を
トンネルを抜け出たように翻るつばめにもきっと利き羽あらむ
ひと粒のあまつぶ食べてあまがえる目をつむりたり緑濃くなる

1首目、東海道五十三次の「庄野」の光景が目の前に広がっている。
2首目、初二句までは花の話かと思う。まだ手つかずの一年である。
3首目「かもめであるかもめ」は当り前なのだが一期一会を感じる。
4首目、水溜まりに映る青空を、水溜まり自身は見ることはない。
5首目、約半世紀続く「徹子の部屋」。身体は小さくなったけれど。
6首目「王冠」の喩えから丸まった海老の大きさや形が目に浮かぶ。
7首目、母の椅子に座ると、ふだん母が見ている風景が理解できる。
8首目、かつて相聞歌に多く用いただけに、もう気軽には使えない。
9首目、人間に利き腕があるように鳥には利き羽があるという発想。
10首目、初句二句三句の音の響きが楽しい。満足している様子だ。

甥や姪を詠んだ一連(「クリオネのごとく」「姪に似たひとり」)があることも、この歌集の特徴に挙げられるだろう。

2021年11月18日、短歌研究社、2200円。

posted by 松村正直 at 17:41| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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