23年にわたってNHKで「クローズアップ現代」を担当してきた著者は、現在、東京藝術大学の理事となり、広報も兼ねて教授たちとの対談を行っている。その12回分をまとめた本。
https://www.geidai.ac.jp/cntnr_column/archive/closeup-geidai
美術、音楽、映像、アート、デザインなど、様々な分野の第一線で活躍している人々の語る言葉には印象的なものが多い。
テクノロジーを活用したシステムやデジタルコンテンツやコンピュータを使った仮想現実は、わたしの作品と似ているように見えますが、真逆ですね。わたしの目指しているものは、どうやって予定調和が壊れるかなんです。それは風であり、空気であり、人。/大巻伸嗣
例えば、手を骨折してギプスをつけていたとします。すると、もういつものようには歌えません。共鳴が変わるんです。声楽に手の骨折は関係ないと思われるかもしれませんが、声を支えるのは全身なんです。まさに全身が楽器となります。/菅英三子
自分自身が強いモチベーションを持って作品を作り始める部分は、あとで説明しようと思っても上手く言えないんです。(…)作品を完成させて十年くらい経って、やっとやりたかったことがなんとなくわかるという。/山村浩二
エネルギーが高まると良い発想ができるんですよね。発想だけ求めても、果てしない砂漠で金貨を探しているようなものです。発想っていうのは、その人間が持つエネルギー、力の強さだという気がするんですよ。/前田宏智
演奏の中で無意識にやっていることってあるじゃないですか。それを人には言葉で教えるしかない。例えば、口の中でどういう空間ができているとか、自分の息がどこに当たっているとか、どこを意識して響かせるとか、お腹の空気の持っていき方とか。/高木綾子
「多様であらねばならない」とか「分断を避けなければならない」とか、「ねばならない」という話って、頭では賛同できても、そうじゃない自分に気が付くだけなんですよね(…)世の中が、「ねばならない」っていう重い足かせや、重荷を背負って、悲壮感の中で新しい時代を作っていこうっていうのは、気高くはあるけど難しい。/箭内道彦
こうした言葉が次々に出てきて引き込まれる。対談相手の言葉をうまく引き出す著者の、インタビュアーとしての技量の表れでもあるのだろう。
2021年5月30日、河出新書、900円。