つはもののかてもまぐさも運ぶらむ牛も軍の道につかへて
はりがねのたよりのみこそまたれけれ軍のにはを思ひやるにも
品川の沖にむかひていくさぶね進む波路を思ひやるかな
それぞれ「牛」「電信」「眺望」の題で詠まれた歌である。
和歌では基本的に漢語は使わず、和語を用いて歌を詠む。1首目の「つはもの」は「兵(へい)」、「かてもまぐさも」は「糧秣」のことだ。2首目の「軍(いくさ)のには」は「戦場」、3首目の「いくさぶね」は軍艦である。
中でも、2首目の「はりがねのたより」が面白い。近代以降の産物である「電信(telegraph)」には、該当する和語がない。そのため「はりがねのたより」(=電線による通信)と苦心して和語に〈翻訳〉しているのである。
文明開化以降の科学、文化、制度、組織を和語を用いてどのように詠めば良いのか。『開化新題歌集』などにも見られる苦労の跡が、こうした歌からも感じられる。