副題は「失われゆく山暮らし、山仕事の記録」。
全国各地に残る山仕事を訪ね回って取材したルポルタージュ。既に失われてしまった仕事もあり、貴重な記録となっている。
登場するのは「ゼンマイ折り」「月山筍採り」「炭焼き」「馬搬」「山椒魚漁」「大山独楽作り」「立山かんじき作り」「手橇遣い」「漆掻き」「木馬曳き」「阿波ばん茶作り」をする人々。
馬搬(馬を使って山から木を搬出する)をする方の、馬に関する話が載っている。
その名を尋ねれば、「馬には名前をつけない」という驚きの答えを口にする岡田さん。理由を尋ねれば、馬に名前をつけると愛情が生まれてしまうから、とのこと。馬はあくまで仕事の道具という割り切りなのだ。
内澤旬子『飼い喰い』にも、ペットと家畜の違いは名前を付けるか付けないかだという話があったことを思い出す。
かつての山には様々な仕事があり、多くの人の生活の場となっていた。こうした仕事には定年がない。体力的な限界を感じてやめることはあっても、長く働き続けることができるものだ。
年を取っても働くことは貧しさではなく、むしろ人生の豊かさだったのかもしれないと思う。
2021年10月5日、山と渓谷社、1600円。