2021年11月18日

立花開歌集『ひかりを渡る舟』


第57回角川短歌賞を受賞した作者の第1歌集。369首。
「まひる野」所属。名前の読みは「たちばな・はるき」。

夕焼けを返して光る教室の机の水面にだまってふれる
まひるまの海を見に行く。聴きに行く。ひとりでも夏は産めるのだから
友人はノートに頰をかぎりなく寄せながらその影に詩を書く
あたためたオリーブ・オイルが遥かより垂らさるる窓際の午睡に
家族から遺族となりてわたしたち小舟で暮らしています、四人で
祈りとは日々の行為のなかにある 床を磨けりこれは祈りだ
疚しさから裂けて溢れるやさしさの、くらぐらと瞼も思考の裂け目
つばめ進入防止ネットをくぐり抜けあなたの声が教会(チャペル)に響く
通話画面に写真を登録しないから鈍色の人が君になりゆく
飲食(おんじき)を繰り返し、死に歩みよる。時に下着を湯に洗いつつ

1首目、誰もいない放課後の教室。水面のように光る机の美しさ。
2首目、句点を打った文体が力強い。自分に言い聞かせているのだ。
3首目、書くことに夢中になっている感じ。「頰」が効いている。
4首目、眠気の訪れと暖かな光の様子が伝わる。溶けていきそうだ。
5首目、家族の誰かが亡くなると、残りの家族は「遺族」になる。
6首目、神社や教会だけが祈りの場所ではない。四句の具体がいい。
7首目「疚しさ」が高じて「やさしさ」になったのか。音が似通う。
8首目、上句が面白い。教会などの広い空間では対策が必要になる。
9首目、人型の輪郭の表示が君であることの不思議。性格も伝わる。
10首目、人の一生は突き詰めればこういうことなのかもしれない。

2021年9月30日、角川文化振興財団、2000円。

posted by 松村正直 at 08:24| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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