副題は「海の哺乳類の死体が教えてくれること」。
国立科学博物館に勤務する著者が、20年以上にわたる研究と2000頭以上の調査解剖の経験を踏まえて記した本。私たちのほとんど知らない「海獣学者」の日々が垣間見られて面白い。
2017年に『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』(新潮社)がヒットしてからだろうか、このところ「○○学者の×××。」といったタイトルの本が増えている。
『天文学者が、宇宙人を本気で探してます!』(洋泉社、2018)
『もがいて、もがいて、古生物学者‼』(ブックマン社、2020)
『フィールド言語学者、巣ごもる。』(創元社、2021)
など、各社から続々と刊行されている。本書もその流れと言っていいだろう。
著者はクジラなどが海岸に打ち上げられる「ストランディング(漂着、座礁)」を研究対象にしている。漂着などめったに見られないものかと思っていたのだが、そうではないらしい。
ストランディングは、決して珍しい出来事ではない。クジラやイルカなどの海の哺乳類(海獣)に限っても、国内で年間300件ほどのストランディングが報告されている。
クジラが打ち上がったとの連絡が入ると、何はさておき著者は現場に駆け付け、解剖に取り掛かる。血まみれ臭いまみれの世界だが、ストランディングの原因究明や研究のためには欠かせないものだ。
大型クジラの場合、肋骨や椎骨も、たった1本でさえ、人間が1人で運ぶのは相当困難である。そうした標本の重みを感じつつ、同時に、こんな巨大な動物が、自分と同じ時代に生きている喜びに心が震える。
一冊を通して、著者の海獣に対する思いの強さがよく伝わってきた。
2021年8月5日、山と渓谷社、1700円。