2021年11月09日

田島木綿子『海獣学者、クジラを解剖する。』


副題は「海の哺乳類の死体が教えてくれること」。

国立科学博物館に勤務する著者が、20年以上にわたる研究と2000頭以上の調査解剖の経験を踏まえて記した本。私たちのほとんど知らない「海獣学者」の日々が垣間見られて面白い。

2017年に『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』(新潮社)がヒットしてからだろうか、このところ「○○学者の×××。」といったタイトルの本が増えている。

『天文学者が、宇宙人を本気で探してます!』(洋泉社、2018)
『もがいて、もがいて、古生物学者‼』(ブックマン社、2020)
『フィールド言語学者、巣ごもる。』(創元社、2021)

など、各社から続々と刊行されている。本書もその流れと言っていいだろう。

著者はクジラなどが海岸に打ち上げられる「ストランディング(漂着、座礁)」を研究対象にしている。漂着などめったに見られないものかと思っていたのだが、そうではないらしい。

ストランディングは、決して珍しい出来事ではない。クジラやイルカなどの海の哺乳類(海獣)に限っても、国内で年間300件ほどのストランディングが報告されている。

クジラが打ち上がったとの連絡が入ると、何はさておき著者は現場に駆け付け、解剖に取り掛かる。血まみれ臭いまみれの世界だが、ストランディングの原因究明や研究のためには欠かせないものだ。

大型クジラの場合、肋骨や椎骨も、たった1本でさえ、人間が1人で運ぶのは相当困難である。そうした標本の重みを感じつつ、同時に、こんな巨大な動物が、自分と同じ時代に生きている喜びに心が震える。

一冊を通して、著者の海獣に対する思いの強さがよく伝わってきた。

2021年8月5日、山と渓谷社、1700円。

posted by 松村正直 at 08:14| Comment(0) | 鯨・イルカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。