副題は「短歌という詩型に生涯愛情を持ち続けた文豪」。
コレクション日本歌人選67。
文豪と呼ばれる鷗外が、多面的かつ膨大な実績を残すなかで、短歌という小さな詩型を終生身近にしていたと思えば、それだけで感慨を覚えるし、じゅうぶん読む価値がある。
森鷗外の詠んだ短歌977首の中から48首を選んで鑑賞している。巻末の「観潮楼歌会をめぐって」や随所に挟まれるコラムも充実しており、鷗外にとって短歌とは何であったのかが少しずつ見えてくる。
特に鷗外が新派和歌、中でも与謝野晶子の歌をどう見ていたかという話は面白かった。初めは批判・反発しながらも気になって仕方がなく、やがてその作風の摂取を試みるようにもなる。
七瀬八峰
むこ来ませ一人はやまのやつをこえひとりは川の七瀬わたりて
書(ふみ)の上に寸ばかりなる女(をみな)来てわが読みて行く字の上にゐる
かすれたるよき手にも似てたをやめのまよふすぢある髪のめでたき
これまで鷗外の短歌にはほとんど関心がなかったのだが、この本を読んで興味が湧いてきた。明治から大正にかけて、旧派と新派、日本と西洋、伝統と革新のせめぎ合いの中に生きた知識人の姿が浮かび上がってくる。
2019年2月25日、笠間書院、1300円。