副題は「三匹の豚とわたし」。
千葉県に移住し1年間かけて三頭の豚を飼育し、それを屠畜場に出荷して食べるまでのドキュメンタリー。すごい本だとは聞いていたのだけれど、想像以上にすごい本だった。
豚の交配や分娩を手伝い、三匹の種類の違う子豚を手に入れ、豚小屋を建て、餌をやり、可愛がり、屠畜場へ連れて行き、屠畜の現場を見て、料理にして食べる。豚の命の最初から最後まで全てを見尽そうとする執念に圧倒される。
豚は生後約半年、肉牛は生後約二年半で屠畜場に出荷され、屠られ、肉となる。
生まれた雄は、生後四、五日で去勢をする。去勢をすると雌と同じくらい肉が柔らかくなり、性格も柔らかくなる。
私たちが日常食べている豚は、肉のやわらかな子豚ばかりというわけだ。わずか半年で約110キロまで太って肉となる。
昔と今の養豚の違いについての記述にも考えさせられる。1961年には農家1戸あたりわずか2.9頭であった飼育頭数が、2009年には1戸当たり1436頭に急増している。それだけ大規模化が進み、軒先で豚を飼うような農家は無くなったということだ。
1頭の豚からどれくらいの肉が取れるかについても詳しい。110キロの豚から取れる精肉は51キロ。そのうち、そのまま消費者に売られる「テーブルミート」はわずか23キロ(肩ロース4キロ、ヒレ1キロ、ロース9キロ、バラ9キロ)。残りの腕(12キロ)やモモ(16キロ)は主に加工用になる。
安くておいしいものをいつでも買えることは、いいことだ。少しでも安くておいしくて、安心安全な肉を求めて、消費者は動く。私だって買い手に回ればそうする。しかしお金をもらう側、売る側作る側になってみれば、大変だ。
豚1頭あたり数万円にしかならない現実を知ると、スーパーで豚肉を見る目も少し変わってくるのではないかという気がする。
2021年2月25日、角川文庫、800円。