戦後、宮崎の片田舎に引揚げてきた時、まだ少年だった私は近辺の川や山野をかけめぐり、ひねもす遊びほうけていた。だがその体験がどれだけその後の生に彩りを添え、豊かにしてくれたことか。自然との昵懇な歳月は人を豊かにするというが、最近になってあらためて遊びほうけていた日々が貴重な体験であったことをしみじみと感じている。
(志垣澄幸歌集『鳥語降る』あとがき)
私は(…)少年のころを思い出した。そのころの別府(帯広市:松村注)には天然の森があちらこちらにあった。川は曲がりくねっていた。私にとってその森や川は最も身近な遊び場であり、昆虫を捕ったり、魚を釣ったりして過ごしたものである。そうした日々は私の71年の歳月の中で、キラキラと星のように輝いている。
(時田則雄『樹のように石のようにU』)
70代、80代になっても、自然の中で遊んだ体験や記憶が、こんなふうに人生の大きな支えになっているのだ。
私にはそういう体験があるだろうかと考える。さらに、私の息子にはどうだろうかといったことも思う。