「科学へのまなざし」「里子に出された娘たち」「「母性保護論争」の勝者は誰か」「童話作家として」「聖書への親しみ」の五章構成。著者の関心の深いテーマに沿って、晶子の評論や作品を引きつつ、その人生を描き出している。
元新聞記者ならではの緻密な資料の読み込みと深い考察力が印象的。男女平等や科学的思考、ワーク・ライフ・バランスといった晶子の主張が、わかりやすく解き明かされていく。
引用されている晶子の論は、現代にも十分に通じる内容ばかりだ。
私は以前から、家庭は男女の協力の中に出来上るべきもので、従来のやうに主として女任せにして置くべきもので無いと考へて居ます。従つて「主婦」と云ふやうな言葉をも好きません。女子が家庭に必ずこびりついて居ねばならぬとする考へに至つては私の最も同感し難い所です。
世間では、父親が小学へ行く幼い子供の送り迎へをしたり、母に代つて乳呑児に牛乳を呑ませる世話をしたり、子供を膝に載せてあやしたりするのを見ると、窃(ひそ)かにその子煩悩を嘲り、女女しい男子のやうに侮蔑する習慣があります。何と云ふ非人間的な習慣でせう。
100年前から既にこういうことを言っていたわけで、やっぱり晶子はすごいと思う。それと同時に、社会の変化は遅々として進んでいないことも痛感させられる。
2009年2月10日、中央公論新社、2200円。