コレクション日本歌人選35。
石川啄木の短歌50首の鑑賞と解説「いま・ここ・わたし・石川啄木」、読書案内、さらに付録エッセイとして三枝ミ之「平熱の自我の詩について」を収めている。
50首の内訳は、『一握の砂』から34首、『悲しき玩具』から9首、歌集未収録歌が7首。
(東海の小島の磯の白砂に/われ泣きぬれて/蟹とたはむる)
この「われ」には、「われ」を歌う「われ」という短歌表現の機能があまねく発揮されていよう。『一握の砂』の最初の章は「我を愛する歌」と題されているが、東海の歌はその幕開けにふさわしい「われ」の歌なのである。
(「さばかりの事に死ぬるや」/「さばかりの事に生くるや」/止せ止せ問答)
そもそも歌には「私」の体験や感動が詠まれているという了解があり、全体が「私」の発話としてカッコに括られているようなものなのだ。だから、対話を取り入れる手法は歌の原理からすれば挑戦的な詠作だったと言えよう。
このように単なる作品鑑賞だけではなく、短歌の本質に触れる記述も多い。
2012年1月31日、笠間書院、1200円。