2021年10月20日

山木礼子歌集『太陽の横』

著者 :
短歌研究社
発売日 : 2021-09-21

2013年に短歌研究新人賞を受賞した作者の第1歌集。

T章に2019年〜2021年の作品連載30首×8回分、U章にそれ以外の歌、合計336首を収めている。二人の子を育てる日々の生活が鮮やかに見えてくる一冊だ。

生活に1を足しても生活で ベビーフードの小瓶をすすぐ
はやぶさは凛々しく走る リビングの風の吹かない線路のうへを
使ひすてのわたしがほしい 封切ればあたらしい笑顔で立ちあがる
芋ほりに子が持ち帰る大ぶりで泥だらけの芋 こまりますよね
子の頰へ口づけるときぼんやりとよだれの跡を避けてゐること
腕づくでちひさな腕を引きよせる石けん水のボトルの下へ
「プチトマトのへた取らないでほしかつた」泣くほどに恨まれて母とは
ベビーカー押して入れば葬場のとびらは思ふよりも大きい
長すぎる一生をふと持てあまし星はしばらく光りてゐたる
雌の方が大きく育つ生き物に生まれたかつた みづに吐く息

1首目、無限ループに入っているみたいな子育て中の疲労感が滲む。
2首目、鳥ではなく本物の新幹線でもなく子が遊ぶおもちゃの車両。
3首目、心身ともに疲れが蓄積する自分をリセットできたらと思う。
4首目「こまりますよね」が読者に語り掛けているみたいで面白い。
5首目、母親だからって子のすべてを受け入れられるわけではない。
6首目、子に手を洗わせる場面。「腕づく」の暴力性に痛みがある。
7首目、親からすると訳のわからないことで子はごねることがある。
8首目、赤子も死者も自分で歩いて出入りができないゆえの広さだ。
9首目、何億年もの寿命を持つ星と人間とでは時間の流れ方が違う。
10首目、男女の格差の原因として体の大きさの問題があるのかも。

2021年9月16日、短歌研究社、2000円。

posted by 松村正直 at 21:03| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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