2021年10月11日

小倉ヒラク『日本発酵紀行』


発酵デザイナーである著者が、全国47都道府県の発酵食品の現場を訪ねてまわった旅の記録。

取り上げられているのは、「愛知・岡崎の八丁味噌」「京都・大原のしば漬け」「岡山・日生のママカリずし」「秋田・八森のしょっつる」「北海道・標津の山漬け」「群馬・高崎の酒まんじゅう」「香川・小豆島の醤油」「佐賀・呼子の松浦漬け」など。

一口に発酵と言っても実に多様であり、日本の食文化に欠かせないものであることがよくわかる。

熟成に時間のかかる醸造蔵は商品を仕込んでから出荷してお金に換えるまでに何年もかかる。それはつまり資金をプールしなければいけないということだ。近代的な金融システムが整備される前の日本では、商品製造のために資本蓄積をしなければいけなかった醸造蔵が、プールした資本の運用のために地域の金融サービスを担ってきた。
醸造蔵は簡単には引っ越せないし、蔵を建て替えることもできない。商品の個性をつくりだす微生物の生態系が変わってしまう恐れがあるからだ。だから古い建物を少しずつ直し、建て増しをしていく。結果、様々な時代の建築が蓄積されることになる。
江戸時代に起きた醸造ビッグバンには意外な立役者がいる。木桶だ。老舗の醤油蔵や味噌蔵で見かける、見上げるほど大きな木桶。これは日本で特異に発達した文化だという。そういえば、ワインやウィスキーに使う木樽(Barrel)で自分の背丈を超すようなものを見たことがない。
藍染めの産業を考えるうえで、ひとつ重要なポイントがある。藍染めの工房は日本各地にあるのだが、染めの原料となるすくもの生産地は限られている。なかでも阿波は質の高いすくもの名産地。全国に消費のための需要がある反面、「原料」を生産できる場所は限られている。これはビジネスにおける最強の勝ちパターン。

どのページにも、発酵に対する著者の情熱と愛情が満ち溢れている。

時おり出てくる「発達したんだね」「ほんとうなんだよ」「大変なんだ」といった語り掛けの口調に最初は少しとまどったけれど、慣れてくると親しみを感じるようになる。

2019年6月10日、D&DEPARTMENT PROJECT、1800円。

posted by 松村正直 at 22:21| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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