2021年10月10日
「川瀬巴水 旅と郷愁の風景」
新宿のSOMPO美術館で開催されている川瀬巴水(1883‐1957)の展覧会に行ってきた。大正から昭和にかけて流行した新版画の第一人者。版画約200点が展示されているほか、旅のスケッチに使われた写生帖などの資料もあり、作品制作の舞台裏を垣間見ることができる。
とても良かった。
やはり美術でも映画でも何でも、思い立った時に観に行くべきだとあらためて思う。次の機会があるかどうかわからないし、その時に自分が同じ気持ちでいるかもわからないのだから。
展覧会を見て気付いたことが2つ。
1つは風景画と言ってもほとんどの作品に人物が配されていること。これは広重の浮世絵などでも同じだけれど、絵の中に人物がいることで、風景が不思議と精彩を帯びてくる。それと、風景だけではあまり時代を感じない場所でも、人物が入ると服装などから時代がわかるようになる。
もう1つは、写生帖と版画作品との違い。全国各地を旅してスケッチした巴水だが、版画制作においてはありのままを描いているのではない。写生帖では山と川だけだった風景に帆掛け船と人物を加えたり、晴天の風景を雪景色に変えたり、様々なアレンジを加えている。
摺り色によって時刻や天候を自由に変えることもできる。これは、絵師・彫師・摺師の分業体制によって作られる版画が、デジタル加工的な側面を持っているということでもあるだろう。巴水作品の魅力は単なる郷愁といった点にとどまらない。加工された世界の持つ様式性やデザイン性でもあるのだと思う。
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