副題は「そしてホホホ座へ」。
2004年から2015年まで京都で個性的な書店「ガケ書房」を経営していた著者が、人生を振り返りながら、商売において大事なことや本についての思いなどを記している。
お客さんからお金をもらって、店という場を続けていくためには、綱引きが求められる。お客さん側の引き。これは、ニーズだ。そして、店側の引き。これは、提案だ。
店は、始めることよりも続けることの方が圧倒的に難しい。運よく開店資金を用意できたとしても、そんなものはすぐになくなってしまう。
棚は畑に似ていて、手をかけていじればいじるほど本が魅力的に実る。そして、それをお客さんが刈り取っていく。嘘みたいな話だが、ずっと動きが悪い本を棚から一度抜き出して、また元の位置に戻すだけで、その日に売れていくこともある。
近年、書店をめぐる状況は悪くなるばかりだ。今月に入って京都でも大垣書店四条店の閉店が報じられている。
その一方で、いわゆるセレクト書店が少しずつ増えているのも確かだ。けれども、そこにも問題点がある。
セレクトを全面に押し出した提案型の個人書店がこの十年くらいで生まれてきた。しかし、そういう店の棚は、どうしても直取引をしてくれる出版社のタイトルに偏りがちで、そうした品揃えを選ばざるをえない個人書店が増えてきた結果、逆金太郎飴状態が生まれている。
なるほど、セレクト書店をいくつか見て回って不思議と品揃えが似ているように感じたのは、そういうわけだったのか。
もちろん、こうした問題に正解はない。生き残りをかけた書店の(そして私たちの)模索は今後も続いていく。
2021年8月10日、ちくま文庫、800円。