副題は「なつかしい風景への旅」。
大正から昭和初期にかけて、版元の渡邊庄三郎を中心に生み出された近代的な浮世絵「新版画」。川瀬巴水、吉田博、伊東深水ら多くの作家が誕生し、海外でも人気を博した。
その代表的な作品を「夜」「雪」「水辺」「富士と桜」といった内容別に収め、解説を施した一冊。作家紹介なども充実していて、新版画の良い入門書となっている。
新版画は和紙という優れた、特殊な媒体と水性顔料、超絶した彫りと摺りの技、そして近代に生きた作家の視覚や感性が、きわめて高い完成度のなかに融合した芸術世界である。
浮世絵や新版画の摺りの現場は、実に水気が多い。紙はあらかじめ湿らせておくし、顔料にも大量の水が使われる。(…)新版画は、日本の湿潤な風景を描くに実にふさわしい手法なのである。
新版画が外国人との仕事から出発したことはとても重要である。和筆を初めて持つ人の線と色を浮世絵の彫摺にあわせる試みが、職人たちを因習から解放し、新たな造形への踏切板となったからである。
新版画にかなり興味が湧いてきた。
美術館に実物の絵を観に行こうと思う。
2018年3月10日、東京美術、3000円。