写真:Harry E.Creagen
副題は「猫のパン屋の台所から」。
旭川で北海道産小麦・ライ麦と天然酵母のパンの店「ベッカライ麦々堂」を営む著者が、北海道の生活やパン屋の日常、周囲の人々との交流について記したエッセイ集。
美しい写真や著者の描いた挿絵がふんだんに入っていて、眺めているだけで豊かな気分になる。
郷に入れば郷に従いながらも、自分のスタイルを持っている人は素敵だなあと思う。田舎の良いところはどんどんまねすればいいし、田舎のつまらない因習はきっぱりやめていけばいいのである。
北海道に住んでいる者は、春という季節に特別の感慨を持つ。まずは雨の音。雪は音がしない。音がするときもあるが、文字にすることができない。ただ気配だけがする。半年ぶりに聞く雨の音は元気な音だ。
何を、どう食っているかは、生き方とつながっているように思えてならない。高価なものを食べるという事ではなく、地元の採れたての野菜や、手を掛けて作ったチーズや燻製を食べ慣れると、出来合いのお惣菜やレトルトパックに入っているものとか電子レンジでチン、というような食べ物は、喉を通らなくなってくる。
麦々堂でパンを焼く麦さん、「アガペ農園」の夫妻、隆平棟梁、チーズ工房「アドナイ」の堤田さん、無農薬野菜を育てるフレッドなど、登場する人物たちもみな魅力的だ。美味しいものとお酒が好きで、楽しくて濃いつながりがある。
読み終えてぜひ一度「麦々堂」に行ってみたいなと思ったのだが、何しろ20年前の本である。今も店が続いているか心配になって検索したところ・・・お店はあった! 旭川で営業を続けている。
しかし・・・
2001年10月10日、自然食通信社、1800円。