2021年08月28日

小島ゆかり歌集『雪麻呂』


2018年から2020年までの作品451首を収めた第15歌集。
高齢の母の介護や引越し、コロナ禍の日々などが詠まれている。

日ざかりをゆらゆら母とわれゆけりたつた二人のキャラバンに似て
七草を言へぬ娘が作りたるとはいへうまし七草の粥
食後とはみだりがはしくなつかしくひとりひとりのたゆたふ時間
いまふかく疲るるわれにフェルメールの女ミルクを注ぎてくれぬ
枇杷たべてしばらく口がしかしかす介護の日々をわれも老いゆく
耳動く窓辺いつしか茜いろ猫は自分に飽きることなし
鳰どりは水にもぐりてみづになり浮き出でてみづは鳰どりになる
浄水場タンクの脇でメモをとる青年の眉上下にうごく
パンデミックのひびき弾めりはじめから人を躍らす言葉のごとく
霊柩車まがりゆくとき見えぬほど金(きん)こぼれたり夏の街路に

1首目、高齢の母を連れて街を歩く時の心許なさやあてどない感じ。
2首目、世代や常識の異なる娘であるが、良い関係がうかがわれる。
3首目、食べる前と食べた後では身体感覚も場の空気も違ってくる。
4首目、優しげな「牛乳を注ぐ女」に元気やエネルギーをもらう。
5首目、取り合わせがいい。「しかしか」に体感がよく表れている。
6首目、いつも自分の身体を舐めている猫。人間はそうはいかない。
7首目、下句が印象的。自在に水に潜るカイツブリの動きが鮮やか。
8首目、何かの検査をしているのだろう。下句の細かな描写がいい。
9首目、感染症の世界的大流行のことだが、表記と音が軽く感じる。
10首目、実際には何もこぼれていない。残像のようなきらめきだ。

2021年7月14日、短歌研究社、3000円。

posted by 松村正直 at 08:28| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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