副題は「京都のはしっこ、個人店に学ぶこれからの商いのかたち。」
8年前の本だが今も版を重ねている。
独自な品揃えで知られる恵文社一乗寺店の店長だった著者が、自分の店や京都にある個性的な店について記した本。書店の話であるとともに魅力的な店とは何かを考察した内容になっている。
出版流通の世界では、POSと呼ばれるデータをもとに問屋が各店におさめる本の内容を決定するのが一般的だ。そのシステムの下では、われわれ購買側は、一人の客や読者としてではなく、データとしてしか認識されない。
書店の閉店が相次ぐのは、素人でも成りたつ構造でなくなりつつあることを意味するのだろう。店頭で立ち読みするのび太をハタキではたいて邪魔をするような、のんびりとした本屋の姿は、いまや一昔前のものになってしまった。
生活の一部である嗜好品、街の延長としての場は、合理性とは相容れない部分もある。同じことは、本屋や出版業界にもあてはまるのではないだろうか。本は商品だけど、文化でもある。論理的には説明しきれない「何か」があるからこそ、文化は継続されるのだ。
刊行から8年、既に様々な状況が変化している。著者は独立して誠光社の店主となり、巻末の対談相手の山下賢二氏はガケ書房を移転・改名して「ホホホ座」の座長となった。著者の「リアルな学びの場であり、先生だった」三月書房は閉店。その一方で「日常的に映画を楽しめる場所は今もない」と記された左京区に、出町座が誕生した。
昨年から続くコロナ禍も街の風景を大きく変えている。店を運営する側にだけ街の変化の責任があるわけではない。私たちもまた、何にどうお金を使うかを示すことで、街づくりに参加できるのである。
2013年11月20日、京阪神エルマガジン社、1600円。