1980年に朝日新聞社から刊行された『アイヌの碑』と2005年刊行の『イヨマンテの花矢 続・アイヌの碑』を合わせて文庫化したもの。
アイヌ文化の伝承に努めアイヌ初の国会議員にもなった著者の自伝的エッセイ集。平取町二風谷の暮らし、祖父母や両親のこと、アイヌに対する差別、研究者との交流、資料館の建設、アイヌ新法の制定など、1926年に生まれ2006年に亡くなるまでの一代記となっている。
穏やかな語り口の文章であるが、中にはアイヌの研究者に対する厳しい批判などもある。
わたしはこのころ、アイヌ研究の学者を心から憎いと思っていました。(…)二風谷に来るたびに村の民具を持ち去る。神聖な墓をあばいて祖先の骨を持ち去る。研究と称して、村人の血液を採り、毛深い様子を調べるために、腕をまくり、首筋から襟をめくって背中をのぞいて見る……。
アイヌの言葉や文化に関心を持った日本人の学者や研究者にはありがたいと思う反面、そういった泥棒まがいや無神経な振る舞いも数多く見てきました。
近年話題になっているアイヌの遺骨返還の問題や、かつての植民地主義的な人類学のあり方などを考えさせられる。
アイヌ協会は昭和三十六年、アイヌという言葉があまりにも差別用語として使われているため、北海道ウタリ協会に名称を変更しました。そのときにわたしは、「いずれアイヌ協会に戻るであろうけれども」と言って、中立の立場を取りました。
著者の没後のことになるが、協会は2009年に再び「北海道アイヌ協会」に戻った。もちろん、それはアイヌ差別の問題が解決したという意味ではないが、大きな一歩と言っていいだろう。先住民族としての権利や文化が今後いっそう守られ、発展していくようにと願う。
2021年7月30日、朝日文庫、1000円。