2021年08月21日

鈴木晴香歌集『心がめあて』


297首を収めた第2歌集。「塔」「西瓜」所属。

ふゆのよる凍りはじめる湖のどこから凍ってゆくのかを見て
目覚めたらうずらのたまごが手の中にあって犯人は隣で笑う
わたくしの原材料の水、その他。その他の部分が雨を嫌がる
湖に指を入れたら少しだけ痛いと思う 湖の方が
ふたりきりになったとしても丸ノ内線ですかって言うだけだろう
.jpegの君の黒目を確かめる わからないってことだけわかる
画家を見るような目で見られてしまう名前を漢字で書いて見せれば
ひとの家の犬を撫でるといいことがあるのだろうか、あなたは撫でる
会うためにあるいはもう会わないために橋は静かにカーブしている
睡蓮と蓮の違いを手のひらで教えてくれたのにわからない

1首目、湖の最初に凍りはじめる場所。感情や心の比喩でもあるか。
2首目、一緒にいる人が載せたのだろう。たわいない悪戯が楽しい。
3首目、人体の約60%は水分だけれど雨に濡れるのは不快に思う。
4首目、結句に驚かされる歌。湖からすれば異物が入り込むのだ。
5首目、せっかくのチャンスが訪れても相手を誘う勇気が出ない。
6首目、黒目の中に写真を撮った人の姿が映っていないか確かめる
7首目、フランスでの歌。字というより絵のように見えるのだろう。
8首目、何気ないことでも人によって違いがある。作者は撫でない。
9首目、上句がいい。この先の運命がどちらになるかはわからない。
10首目、水面と花の位置関係。相手の一生懸命な姿がよく伝わる。

2021年7月31日、左右社、1800円。

posted by 松村正直 at 00:26| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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