2021年08月13日

大木毅『独ソ戦』(その2)

この本が興味深いのは、太平洋戦争との類似点も多いように感じるからかもしれない。

当時、(ドイツ)国防軍の戦車や航空機をはじめとする近代装備の多くは、ルーマニア産の石油で動いていた。それゆえ、ハルダーは、攻勢防御の方針をあらため、ルーマニアの油田を守るためには対ソ戦もやむなしと判断したのだ。

これは、日本軍がオランダ領インドネシアの油田地帯を攻撃・占領した話とつながるものだろう。

小都市デミーンでは、ソ連軍の占領直後、一九四五年四月三〇日から五月四日にかけて、市民多数が自殺した。正確な死者数は今日なお確定されていないが、七〇〇ないし一〇〇〇名以上が自ら命を絶ったと推定されている。

ドイツ本土で起きた集団自決である。これを読むと、沖縄などで起きた悲劇は日本特有のものではないことがわかる。これまで日本の特殊性のように言われていたことを相対化するものと言っていいだろう。

ソ連軍の満洲侵攻や戦後のシベリア抑留との関わりも深い。侵攻してきたソ連軍に対して関東軍がまたたく間に蹂躙されたのも、独ソ戦で発揮されたソ連の「作戦術」によるものなのかもしれない。また、戦死者を多く出したことによるソ連の労働力不足は、シベリア抑留の一つの原因にもなった。

独ソ戦について学ぶことで、日本の戦争の姿が見えてくる面があるのだと思う。


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2015年にサハリンを訪れた際に見かけたポスター。

「5月9日」は何の日だろうと思って調べたところ、対独戦勝記念日であった。

2019年7月19日第1刷発行、2020年2月5日第10刷発行。
岩波新書、860円。

posted by 松村正直 at 09:59| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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