2021年08月10日

高野公彦歌集『水の自画像』


2019年から2021年5月までの作品426首を収めた第16歌集。

新聞社に〈伝書鳩部〉のありしころ年初(ねんしよ)の空を飛びし鳩たち
縄文の世の老いびとは眼鏡なし病院もなし如何に生きしや
五階より富士見ゆる日と見えざる日、見ゆる日増えて寒(かん)に入りゆく
武器持たず戦死を遂げしひめゆり隊。瑞泉隊も白梅隊も
次郎柿大きく甘しこの柿を育てし人の大き手思ほゆ
てふてふが一匹東シナ海を渡りきてのち、一大音響
妻はナスわれはナスビと言ひしかど今残されて茄子煮を作る
鳴きやみて山鳩言へり人間は戦争が好き、死ぬのが嫌ひ
置時計のほとりに胡桃一つあり胡桃に一日(ひとひ)ひびく秒針
コロナ禍の或る日おもへりにんげんは話し相手が無ければ 海鼠

1首目、速報を伝えるために伝書鳩が飼育・訓練されていた時代。
2首目、平均寿命は約30歳だが、65歳以上まで生きる人もいた。
3首目、自宅からの眺め。冬は空気が澄んで、遠くまでよく見える。
4首目、ひめゆり隊が有名だが、女子学徒隊は他にもいくつもある。
5首目、下句がいい。大きな柿を包み込むような大きな手を思う。
6首目、安西冬衛の詩と富沢赤黄男の句を踏まえてコロナを詠んだ。
7首目、なすびと呼ぶのは主に西日本。亡き妻を偲びつつ料理する。
8首目、誰もが死ぬのは嫌いなのに、なぜか戦争は無くならない。
9首目、下句がいい。胡桃の堅い殻の中に秒針の音が響き続ける。
10首目、一字空けの後の「海鼠」の印象が強烈。痛切な思いだ。

侮蔑語のニュアンスのあるガラケーのその静寂を身ほとりに置く

スマホ嫌いを歌で公言している作者だが、なるほどガラケーを使っているのか。同じガラケーユーザーとして、ちょっと親近感を覚える。

2021年7月7日、短歌研究社、3000円。

posted by 松村正直 at 11:47| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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