絵:shunshun
福島県三春町で、「永く使いたい器と生活道具の店〈in-kyo〉」を営む著者が、四季折々の町の様子を記したエッセイ集。
2020年「立春」から始まって2021年の「大寒」までの二十四回、二十四節気ごとのエッセイがまとめられている。
三春という土地の名前は、梅・桃・桜の三つの春が同時に訪れることが由来だと聞いている。早い年だと三月末頃には梅が咲き始め、バトンを渡すかのように桃の花が色を添え、四月に入れば見事なまでのしだれ桜やソメイヨシノが蕾をほころばせる。
三春では暦と実際の自然の移ろいとが、ピタリと歩調を合わせることが多いような気がしている。昔は当り前だったかもしれないそのことが、気候変動もはげしい昨今、豊かなことだと素直に喜びたいと思っている。
気候、風土、歴史、民俗、人々の暮らしや交流の様子などが、落ち着いた筆致で記されている。読んでいて心地よい文章だ。
三春には一度だけ行ったことがある。福島に住んでいた時なので、もう四半世紀も昔のことだ。磐越東線の三春駅からバスに乗って、郊外の滝桜を見に行った。桜は素晴しかったけれど、そう言えば町はほとんど見ずに帰ってきたのだった。
いつかまた訪ねてみたい。
2021年3月29日、信陽堂、2000円。