全国各地にある動物園を巡りながら、動物園とは何かについて考察した本。公営の動物園以外にも、民間の小さな動物園や、かつて盛んに行われた見世物やサーカスの動物ショーに至るまで、対象は幅広い。
動物園が当り前にあった時代を過ぎて、今では動物園が何のために存在するのかを問い直される時代になっている。希少動物の輸入が難しくなり、動物福祉の考えも広まってきた。そうした中にあって、私たちにとって動物園とはいったい何であるのか。歴史・文化・民俗・科学・政策・法律など様々な観点からアプローチしていく。
現代の動物園で目にする動物の多くは、実は動物園生まれなのである。動物園で生まれ育ち、外の世界を知らずに死んでゆく。
つがいの動物はしばしば「夫婦」と見なされ、子どもが生まれると今度は「家族」と呼ばれることが普通だった。人間の関係が動物に平気で投影された。
地方自治体では、博物館・美術館は博物館法に基づき教育委員会、動物園は都市公園法第二条で「公園施設」に規定されているがゆえに公園課の所管が多く、それだけでも両者は遠く隔たっている。
動物園においては四〇年ほど前に廃止された動物ショーが、多くの水族館では集客のために欠かせない。その主役がイルカである。いくつかの水族館では、イルカショーがその経営を支えているといっても過言ではない。
現場を訪ねて取材を重ね、また多くの文献資料に当たることで、著者は動物と私たちをめぐる多くの問題を浮き彫りにする。その圧倒的な筆力には感嘆するほかない。動物について考えることは、人間について考えることでもあり、また命について考えることでもあるのだ。
2018年11月26日、東京大学出版会、2800円。