東京の大森で古本屋「山王書房」を営んでいた著者のエッセイ集。
1978年に三茶書房から刊行された本が32年後の2010年に復刊され、今でも版を重ねている。
正宗白鳥、上林暁、尾崎士郎、尾崎一雄、野呂邦暢といった文学者との交流や、店を訪れる客とのやり取り、古本に対する思い、故郷の思い出などが、ユーモアも交えて綴られている。確かに名著と言われるだけのことはある。
私は売れなくてもいいから、久米正雄の本は棚の上にそのまま置いておこうと思う。相馬御風、吉田絃二郎、土田杏村の本なども今はあまり読む人もなくなった。古本としては冷遇され、今は古本屋の下積みとなっている不遇な本たちだ。
柿の木にまたがって食う柿の味は、柿の最高の味かもしれない。まして、色づいた四囲の山々を眺めながらの味は……。
還暦記念に本書の出版の準備を進めていた著者は、完成を見ることなく59歳で亡くなった。でも、残された本は多くの人に読まれ続けている。
2010年10月30日第1刷、2021年2月15日第11刷。
夏葉社、2200円。