2021年07月21日

村松美賀子・伊藤存『標本の本』


副題は「京都大学総合博物館の収蔵室から」。

約260万点の学術標本や教育資料を収蔵する博物館の中から、著者が興味を惹かれたものをカラー写真入りで紹介した本。標本とは何か、どのような目的で作られ、どのように活用されるかといった基本的なことも詳しく解説されている。

蝶の羽は色素ではなく“構造色”といって光の波長などが鱗粉の表面で変化する原理であるため褪色しにくいが、バッタやトンボ、ウスバカゲロウなどの色は色素なので、殺虫や保管に使う薬剤などにより、鮮やかな緑や黄色の色素は抜けてしまう。
“ウミヘビ”にはは虫類のウミヘビと魚類でウナギの仲間のウミヘビがいる。和名はどこに分類するかの判断材料にはならないのだ。
生物の種名に関しては、実在する種のうち多くて20分の1、少なく見積もると100分の1くらいしかついていないともいわれている。

こんな面白い話がたくさん載っていて飽きない。

中でも一番驚いたのは収集した植物を挟んでいた新聞紙の話。1923年に京都帝国大学理学部が沖縄の調査をして植物を収集した。

調査隊が持ち帰った大量の植物のうち、70点ほどが琉球新報、沖縄毎日新聞など当時の沖縄の新聞に挟まれていた。発見された貴重な新聞紙はすべて沖縄県公文書館に寄贈された。

太平洋戦争末期に戦場となった沖縄には、戦前の新聞がほとんど残っていない。戦災で多くのものが焼かれてしまった過酷な歴史が、こんなところにも顔を覗かせている。

2019年3月20日、青幻舎ビジュアル文庫、1500円。

posted by 松村正直 at 22:53| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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