2021年07月13日

矢ぐるまの花(その2)

「古い時代の言葉の意味を知るには、その当時の辞書を調べるのが一番」と、かつて安田純生さんに教わったことがある。「矢ぐるまの花」についてはどうだろう。

そんな時に辞書ではないけれど役に立つのが青空文庫である。青空文庫の検索機能を使って「矢車の花」を調べると、古い用例がいくつも見つかる。

中華民国の旗。煙を揚げる英吉利(イギリス)の船。『港をよろふ山の若葉に光さし……』顱頂の禿げそめた斎藤茂吉。ロティ。沈南蘋。永井荷風。
 最後に『日本の聖母の寺』その内陣のおん母マリア。穂麦に交じつた矢車の花。
      芥川龍之介「長崎」(大正13年)

長崎の名物を列挙した文章に「矢車の花」が出てくる。ここで注目すべきは「穂麦に交じった」だ。ヤグルマギクは英語で corn flower と言い、麦畑などの穀物畑に咲く花という意味なのである。

雛罌粟(コクリコ)の花が少しあくどく感じる程一面に地の上に咲いて居る。矢車の花は此國では野生の物であるから日本で見るよりも背が低く、菫かと思はれる程地を這つて咲いて居る。
      与謝野晶子「巴里の旅窓より」(大正3年)

フランスを訪れて見かけた花についての描写。ヤグルマソウが日本の在来種であるのに対して、ヤグルマギクはヨーロッパ原産。フランスの国花の一つにもなっている。

つまり、芥川の「矢車の花」も晶子の「矢車の花」も、どちらもヤグルマギクを指している。

posted by 松村正直 at 23:14| Comment(0) | 石川啄木 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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