2012年から2020年までの作品337首を収めた第2歌集。
サラリーマンの哀歓を詠んだ歌とお酒や飲食に関する歌が中心。
妻を詠んだ歌にも印象的なものが多かった。
ふたりとも「田村」の判を押し終へて離婚届を折りたたみたり
サラリーマンは太鼓持ちではないけれどときをり持ちて叩くことあり
黒豆が黒豆せんべいから落ちて秋の底へと転がりゆけり
エレベーターわが前へ昇り来るまでを深き縦穴の前に待ちをり
おでん屋の湯気にわれらも茹でられて竹輪とがんもになりて別れる
常夜灯ともして妻のゐない夜もベッドの片側空けて眠りぬ
日めくりの厚みが壁に突き出して仕事始めのうどん屋しづか
菊の花二輪が皿に咲いてをり〆鯖がわれに食はれたるのち
辛口の「谷川岳」を北に置きわがテーブルは関東平野
テーブルでMacの画面ひらくとき妻のMacの背と触れ合ひぬ
1首目、離婚する時点ではまだ同じ姓なのだが奇妙な感じを受ける。
2首目、上司や得意先の機嫌を取らなくてはならないこともある。
3首目、「秋の底」が黒豆の「黒」と響き合って深さを感じさせる。
4首目、扉が閉まっているので感じないが、落ちたら死ぬ深さだ。
5首目、「竹輪とがんも」に上機嫌のほろ酔い気分が表れている。
6首目、ダブルベッドに広々寝ても構わないのだが、そうはしない。
7首目、まだ1月なので日めくりは箱のような厚みと存在感がある。
8首目、もともと皿にあったのだが、食後に目に付くようになる。
9首目、群馬出身の作者らしい歌。関東平野を俯瞰するような視点。
10首目、向かい合ってパソコンを開く場面。妻との距離感が新鮮。
2021年6月22日、いりの舎、2500円。