2021年06月25日

光嶋裕介『ぼくらの家。』


副題は「9つの住宅、9つの物語」

2011年以降に著者のつくった8つの住宅「凱風館」「祥雲荘」「如風庵」「望岳楼」「旅人庵」「群草庵」「森の生活」「静思庵」と、「未来の光嶋邸」をめぐる物語。

本書の大きな特徴は、語り手が作者の一人称ではなく、9篇それぞれ別のものに設定されていること。家(ぼく)、女の子(わたし)、野良猫(俺)、家(オイラ)、男の子(ボク)、石(吾輩)、火(僕)、ハリネズミ(オレ)、娘(私)といった具合だ。

こうした手法の元にあるのは、家は建築家のものではなく多くの人の関わりによって生まれるものだという作者の信念であろう。

住宅という建築には、住まい手たちの物語があり、それが、どこか生命体のように設計者である建築家の意図をはるかに超えて、時間と共に大きく成長していきます。住宅には、住まい手たちを中心にしてコスモロジーがつくられていくのです。

人が家をつくるだけでなく、家もまた人を育て、人と人との新しいつながりを生み出していくのだ。

この国の木造住宅の平均寿命がたった三十年やそこらで、次々と建て替えられる「スクラップ・アンド・ビルド」の価値観は、住宅を消費される商品としてしか見ておらず、絶対に見直されなければならない。
建築家の仕事であるちょっぴり先の未来を予想する「設計」という行為に対して、不確定要素である「予測不能性」を残しておくことが鍵となってくるように思える。つまり、設計時には意図していなかった使われ方をするかもしれないことに、建築家が自覚的であり、覚悟をもってデザインに挑む必要がある。

こうした考え方は魅力的だし、共感する部分も多い。ただ、本書に収められているのは、如風庵における集成材使用に関するトラブルを除けば、基本的に成功例ばかり。建築としての真価が問われるのは、まだこれからなのかもしれない。

2018年7月25日、世界文化社、1600円。

posted by 松村正直 at 08:38| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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