副題は「「天安門事件」から香港デモへ」。
2018年にKADOKAWAから刊行された単行本(城山三郎賞、大宅荘一ノンフィクション賞受賞)に新章を加筆して改題したもの。
1989年6月4日に起きた天安門事件やその後の中国の民主化運動に関わった様々な人へのインタビューを通じて、あの事件が何であったのか、社会や人々の人生にどのような影響を及ぼしたのかを、多面的に分析している。
これはすごい一冊! おススメ。
著者はまず、「民主主義は正しい。ゆえに民主化運動は正しい。それを潰すのは悪い。(なので、きっと将来いつか正義は勝つ)」という、四半世紀にわたって言われ続けてきた正論に疑問を呈する。
正論はあくまで正論として、でも現実はそうなっていないのはなぜなのか。深く切り込んでいくのである。
「中国は変わったということなのさ。天安門事件のときにみんなが本当に欲しかったものは、当時の想像をずっと上回るレベルで実現されてしまった。他にどこの国の政権が、たった二十五年間でこれだけの発展を導けると思う?」
「中国の経済発展はやはり認めざるを得ない。それに、いちど反体制側の人間になると親孝行ができなくなります。親が亡くなっても葬儀ができなし、墓参りもしてあげられない。この不孝は中国人にとってなによりもつらいことです」
民主化を望むような中国人は、なんだかんだ言って本当は祖国が大好きだ。ゆえに中華民族が力をつけ、中国が国際社会において重きをなしていく事態は、やはり心から嬉しくなってしまう。
一つ一つ、なるほどなあと思って読む。中国の圧倒的な経済発展は、天安門事件の意味や評価までも大きく変えていったのだ。その事実をまず直視しないことには、何も始まらないのだろう。
2021年5月10日、角川新書、1000円。