2021年06月06日

樋口薫『受け師の道』


副題は「百折不撓の棋士・木村一基」。

東京新聞・中日新聞に2020年2月10日から4月10日まで連載された記事と、2020年1月11日に開催されたトークショーの内容を収めている。

一昨年、第60期の王位のタイトルを獲得した木村九段のドキュメンタリー。実に7度目のタイトル挑戦であり、46歳での初獲得は最年長記録であった。

気遣いの人として知られ「将棋の強いおじさん」の愛称でも親しまれている木村の棋士人生や人柄がよく伝わってくる内容だ。

「勝負の世界は同業者の見る目が大きい。落ちてもすぐに復帰すれば『陥落は間違いだった』となる。でも下のクラスに定着すると、周囲から『この人は実力が落ちた』と見られる。」
「勝つためには結局、将棋にかける時間を増やすしかないんです。奨励会の時代からずっとそうして、ここまでやってきましたから」
「(長考に関して)こっちが考えていたことが無駄になったのかといったらそんなことはなくて、こういうときに考えたことは、将来必ず生きます。このときは生きないかもしれませんけど、いずれ似たような形になったときに思い出す。」

負けようと思って戦う棋士はいない。それでも、勝つか負けるかの厳しい世界。木村の話す一語一語に重みがある。

棋士になってからタイトル獲得までに要した時間は実に22年5か月。これも最長記録である。ほとんどの棋士がタイトルを一度も獲ることなく去っていくことを思うと、まさに偉業とも呼ぶべき記録なのだと思う。

2020年6月27日、東京新聞、1400円。

posted by 松村正直 at 21:03| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。