300首を収めた第1歌集。
章立てはなく、1ページ2首の歌が150ページ続く。
月比べしながら歩く一本道 そっちの月も見頃だろうね
バルセロナバルセロナに行くその日までバルセロナに行くまでのこの日々
バースデー・ソングは歌い出す前の表情さえもバースデー・ソング
あの籠を買ったら洗濯籠にして洗濯物を一挙に運ぶ
会いたいと思ってこその帰り道だ酔ったら酔ったでくらくら帰る
釣り好きが高じて竹の釣り竿に目がない人の輝きっぷり
ああ低い月が出ていて前を行く小学生の頭にふれる
円卓を日当たりのいい一角へ動かすためのこの腕捲り
寝てたのに体は箱根に着いている電車は体しか運べない
かまくらを布団でつくってきいているクールダウンに最適の雨
1首目、「月比べ」が面白い。ケータイで話をしながら歩いている。
2首目、まだ行ったことがないからこそ、憧れや楽しみが持続する。
3首目、バースデーソングには期待や緊張を含む儀式っぽさがある。
4首目、店にある籠は使い方によって洗濯籠にも別のものにもなる。
5首目、お酒を飲んで人恋しい気分で歩く夜。「こその」がいい。
6首目、「輝きっぷり」がいい。興味のない人には価値のない品々。
7首目、月の低さの表現が実に印象的。大人の頭では面白くない。
8首目、結句に生な臨場感がある。「ために腕捲りする」ではダメ。
9首目、小田急線のロマンスカーかな。意識がまだ追い付いてない。
10首目、布団をかぶって気持ちを静めている。初二句が個性的だ。
装幀が実にオシャレでかっこいい。
これで1800円という値段に出版社のやる気を感じる。
2021年3月31日、左右社、1800円。