2021年05月26日

野澤亘伸『師弟』


副題は「棋士たち 魂の伝承」。
2018年刊行の単行本の文庫化。巻末に文庫版特別鼎談「おらが弟子自慢」を収めている。

6組の棋士の師弟に取材して、棋士人生や師弟関係のありようを描いたノンフィクション。登場するのは「谷川浩司・都成竜馬」「森下卓・増田康宏」「深浦康市・佐々木大地」「森信雄・糸谷哲郎」「石田和雄・佐々木勇気」「杉本昌隆・藤井聡太」。

プロ棋士の養成機関である「奨励会」に入るには、棋士の誰かに入門する必要がある。

奨励会の試験は毎年8月に行われ、全国から「天才」と呼ばれた子どもたちが集まる。合格率は約3割。しかし、本当に厳しいのは入会後にプロになるまでの過程である。合格した子どもの約8割が、年齢制限までに規定の段位に達することができないか、自分の才能に限界を感じて辞めていく。

何ともすごい世界だと思う。そうしてプロになっても、タイトル争いに絡むことができる棋士はほんの一握りだ。

杉本 教室の生徒なら、こちらも一生その子と付き合えますが、奨励会に入りたいと言われてしまうと、ただでは済まない。棋士になって一生付き合うか、途中で辞めて違う道に行くかの二つに一つでしょうから。そう言った意味で師匠をお願いされるときには、非常に複雑な気持ちになることが多いです。

6組の師弟の関係は一様ではないが、世代の異なる二人が交わることによって、互いの人生が変化していく。その人間ドラマを、本書は見事に描き出している。おススメ。

2021年2月20日、光文社文庫、680円。

posted by 松村正直 at 22:18| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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