白洲正子『かくれ里』に影響を受けた著者が、全国各地にある素敵な場所を訪ね歩き、日本の歴史や観光のあり方について考察した一冊。
取り上げられているのは、「日吉大社、慈眼堂、石山寺」「羽後町田代、阿仁根子」「能登半島」「八頭町、智頭町」「奄美大島」「萩」「三井寺」「南会津」「青ヶ島」「三浦半島」の全10か所。
こんなふうに全国各地をめぐるタイプの本は、見つけるといつも買ってしまうな。
日本はよく「木の文化」と称されますが、実は「石の文化」でもあります。殊に古代神道における石への崇拝は根強く、神社を訪れることは石との出会い、といっても過言ではありません。
東京を中心にした現代の感覚では、輪島は「遠い」場所で、この地で洗練された漆器類が生産されることは不思議に思われがちです。しかし、視点を変えれば、能登半島は昔の日本列島の航路における要衝の地と、とらえることができます。
「草の生えた屋根」は決して古式というわけではなく、エコロジカルな意味で最先端ととらえることもできます。近年では小さなデザイン住宅から巨大な工場まで、雑草や芝生を屋根や屋上に生やす試みを、世界各地で見ることができます。
半世紀近くにわたって日本を見てきた著者は、美しい風景を愛するだけでなく、土建国家日本の公共事業や、近年のオーバーツーリズム、インスタ映え等に対する危惧を、繰り返し指摘している。
私たちの観光も、将来を見据えて持続可能なものに変えていく必要があるのだろう。
2020年12月22日、集英社新書ヴィジュアル版、1400円。