副題は「神様にどうしても伝えたい願い」。
願いごとを託し、あるいは願いが叶ったお礼に、神仏に物を供える。それが何百、何千と集まると、奇妙で圧倒的な光景が出現する。全国各地のそうしたスポットを訪れて紹介した一冊。
神木に打ち付けられた鎌、山のように積まれた牛の鼻輪、洞窟に差し込まれた刀、1万本以上ある鹿の角、畦道で結合する藁の性器、本堂に吊り下げられた死者の衣服など、どれもこれも凄まじい迫力だ。
それは人間の祈りの形ではあるけれど、さらに言えば人間の剝き出しの欲望や執念の姿でもある。美しさと醜さが入り混じっている。
民俗学・宗教学的な観点から見て印象的な話も多い。例えば「鮭千本供養」は、もともと鮭を千匹捕獲するたびに卒塔婆を一本立てる慣わしなのだが、
人工孵化によって遡上してくる鮭の数が桁違いに増えたのだ。かくして、数年あるいは数十年に一度だった鮭の供養塔も毎年のように建てられるようになったのである。
という状況になっている。供養すべき鮭の数が飛躍的に増えてしまったのである。
また、未婚で亡くなった子のための「婚礼人形」の奉納の背景には、
無縁仏とは、行き倒れや漂流死体もだが、その家の未婚で死んだ者や子を持たない者、そして幼児もそれに相当する。
という死生観があるのだという。つまり、早くに亡くなった子を家の祖霊として迎えるために、死後の婚礼を行っているのだ。そう考えると、何ともせつない気分になる。
2018年12月7日、駒草出版、1500円。