2019年に逃亡犯条例の改正案をきっかけに香港で起きた大規模なデモに取材した一冊。2014年の雨傘運動の高揚や挫折を経て新たなうねりとなったデモの経緯を、現地での取材やインタビューを通じてまとめている。
帯には日本でも有名になった周庭(アグネス・チョウ)の写真が大きく載っているが、周庭に関する話は終章に追加的に載っている程度。雨傘運動と違ってリーダーのいない運動と言われた2019年のデモについて、様々な参加者の声を集めることが中心となっている。
ブルース・リーの言葉“Be water”(水になれ)は、今回の運動の象徴的な言葉として、すでにTシャツなどに書かれ、戦術的なスローガンともなっているのだ。
1997年の香港返還以来、一国二制度という建前のもと、香港が徐々に中国本土の影響下に置かれてきたことは間違いない。その大きな要因は、中国の飛躍的な経済発展にある。
経済に関しては、香港はすでに中国の一部になっているとも言われる。一九九七年の中国返還に際して、中国全体のGDPに占める香港の割合は二〇%以上にも上っていた。しかし、二〇一四年現在、それはわずか三%になっている。
香港経済が大陸への依存度を高めていくにつれ、香港の地価を上昇させ、結果、香港人の住宅事情を悪化させた。香港の若者は二〇代後半でも親と同居せざるを得ないという。
香港の民主化運動と一口に言っても、参加する人の立場は様々だ。「民主派」「自決派」「本土派」「帰英派」「独立派」など、それぞれの主張には違いがある。
筆者は基本的にデモや民主化運動に寄り添う立場だが、運動が民族主義的で排外的な要素も持つことや、エリート大学生のデモ隊が学歴の低い警察官に侮蔑的な言葉を発する様子など、負の側面もきちんと描いている。そのあたりが信用できるところだと思う。
2020年5月20日、集英社新書、860円。