2017年に柏書房から刊行された本に加筆修正して文庫化したもの。
日本の伝統と思われている様々な行事・風習・生活様式が、実は比較的新しいものであることを、多くの実例を挙げて面白く示している。
取り上げられているのは「初詣」「神前結婚式」「肉じゃが」「土下座」「千枚漬」「橿原神宮」「ちゃっきり節」「津軽三味線」など。
この本の良いところは、単に雑学ネタを並べただけでなく、私たちのモノの見方や認識の方法についての考察を含んでいるところだろう。
現地で作ったものを現地の人が食べるだけなら、特別な名前はいらないのだ。うどんはうどん、そばはそば、ラーメンはラーメン……で十分だから。(讃岐うどん)
対する西洋だって、実は漠としているのだ。なんとなくヨーロッパと北アメリカを思い浮かべる人が多いだろう。ではアフリカは?あそこは西洋なのか?(東洋)
香川県のうどんは県外に出て行って初めて「讃岐うどん」になる。西洋文明と出会うことで初めて「東洋」という概念が生まれる。
外部との接触によって新たな伝統が誕生するわけだ。おそらく、明治期の「短歌」もその一つと言っていいのだろう。
2021年1月1日、新潮文庫、590円。