副題は「日本語表記の歴史」。
現代日本語の標準的な書き方がどのような歴史的な経緯をたどって生まれたのかを、時代を追って考察した本。
仏像の銘文、木簡、万葉集、源氏物語、平家物語、人情本、辞書、教科書など、多くの実例を挙げながら様々な可能性を検討していく。
特に、「漢字片仮名交じり」と「漢字平仮名交じり」では、成り立ちや基本的な考え方に大きな違いがあるという点が印象に残った。
片仮名は漢字とともに使用される。その場合、漢字はほぼ楷書体であるので、片仮名も連綿はしない。連綿する平仮名とともに使われる漢字は、そのような平仮名と親和するために、行書体あるいは草書体のかたちで、平仮名とともに使用される。
漢文を背景にしている「漢字片仮名交じり」では漢字のみで書くことを起点とし、漢字で書けない言語要素を必要最小限示すことを基調としていると思われる。一方、和文を背景にしている「漢字平仮名交じり」は、ほとんど仮名で書くことを起点とし、そこに漢字を交えていったと思われ(略)
和歌・短歌に関わる記述もいくつかある。
和歌を書くということが平仮名の発生を促したというと、言い過ぎであろうが、和歌と平仮名とはつよく結びついていた、とみることは自然であろう。
俗語雅語対訳辞書『詞葉新雅』である。富士谷御杖の著作で、凡例にあたる「おほむね」には、歌作にあたって、この本が出版された江戸時代の「話しことば」=「里言」から「古言」=歌作にふさわしい過去のことばを探し出すことができるように編集されていることが述べられている。
それにしても、近年、著者の日本語関連の本は毎年のように出版されている。ものすごい仕事量だ。あとがきに「必要があって、現代の短歌を集中的に読んだ」とあるので調べたところ、昨年『ことばのみがきかた 短詩に学ぶ日本語入門』という本を出したらしい。
第一章 斎藤茂吉の短歌をよむ
斎藤茂吉の『赤光』をよむ/連作の意図/情報の組み合わせ/虚構的【ことがら】情報/具体から抽象へ―写生から象徴へ/岡井隆と吉本隆明のよみ/茂吉の「難解歌」/茂吉の自己劇化
第二章 茂吉と二人の歌人
書きことばと読み手/恂{邦雄と岡井隆/塚本邦雄のよみ/芥川龍之介のよみ/よみの違いはなぜ生まれるか/「私詩」と〈事実〉/岡井隆のよみ
目次を見ると第二部はこんな感じになっていて、またちょっと興味をそそられてしまう。
2017年10月13日、平凡社新書、840円。