昭和の頃にはあって今では見かけなくなった仕事を平野恵理子のイラスト入りで解説した本。
取り上げられている職業は、赤帽、灯台職員、井戸掘り師、炭焼き、金魚売り、貸本屋、寺男など114種類。中でも一番印象に残ったのは新聞社伝書鳩係。
鳩を訓練・育成するのが「伝書鳩係」で、新聞社内でも専門職として遇され、異動もなく、少人数で仕事を行った。彼らは鳩を会社から貰うと、社屋の屋上に鳩舎を作り、毎朝夕に規則正しく飛ばせて運動させ、飼育した。
昭和十五年、三宅島噴火のスクープ記事を新聞社が報道できたのは伝書鳩の送稿によってであった。
おお、そんな仕事があったとは!
昭和三十年代半ばまでは伝書鳩が使われていたらしい。
川に鉄筋の橋が架かると、それまで対岸まで人を乗せていた渡し船の人たちはどこへ行ってしまったのだろう。傘が安価に買えるようになると、傘の修理をして生計を立てた人はどうなったのだろう。いつも夕方に子供たちを楽しませてくれた紙芝居のおじさんたちは、テレビの登場でどこへ行ったのだろう。
様々な職種が成り立っていたのは、生活が貧しかったためである。でも、食べていくための手段・方法が多くあったわけで、見方によっては豊かな社会だったと言えるのかもしれない。
2021年2月25日、角川ソフィア文庫、1480円。